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孤独感から逃げるように駆け込んだ安ホテルのベッドは、ユースのそれとは比べ物にならないくらいふかふかで、快適な寝心地だった。やっぱり一人部屋はいい。
朝10時ごろチェックアウトすると、ホテルの前にバスが停まっていた。バスのドアはまだ開いていない。運転手も乗っていない。先にバス停にいた東洋人風の夫婦に声をかけられた。「中国人?」「日本人です」「僕たちはアメリカから来た。日本はとてもいいところらしいね、一度行ってみたい」とかなんとか英語で会話。バスの運転手はカフェで朝食を取っていたらしい。10分ほどで出発した。
10分ほどバスに揺られていると、急に景色が開けて霧の中にモンサンミッシェルの影が見えた。なんだかとても荘厳な雰囲気。窓に映りこむ自分の影も気にせずに、反射的にシャッターを切った。 モンサンミッシェルに着いて門をくぐると、日本人の団体とハチ会わせ。よく見ると案内板には日本語も書いてある。世界中の観光地に日本人がいるのだろう。つくづく裕福な国だ。 朝飯を食っていなかったので、参道にあったカフェでクロワッサンを食べる。モンサンミッシェルはオムレツが名物らしいのだが、オムレツの店はどこも高い上にモロに観光客歓迎ムードだったので結局行く気になれなかった。参道を登っていくいろんな国の観光客を見ながら、しばらくまったり。日本人はやっぱりほとんど集団で歩いている。白人は親子連れが多い。おもしろいなぁ。ふとここで、あることに気付いてしまった。僕は一度こういう場所に来たことがある。そうだ、山寺だ。そういえば、あれもなかなか荘厳でお金の匂いのする宗教的建築観光地だった。モンサンミッシェルの格が少し下がった気がした。 カフェを出て、参道を歩いた。いくつかホテルがあったが、予想通り料金が高い。手前で一泊したのは正解だったようだ。参道にも犬の糞が落ちていた。フランスはどこに行っても犬の糞とコンドームだらけなのだ。さすがにここにコンドームは落ちていなかったが。 。しばらく歩くと、広い井戸のようになっている場所があった。覗き込んでいる人がいる。何かと思ったら賽銭を投げ入れるための井戸だった。しかも、井戸の「とい」には小さい木の箱が置かれている。みんなここにコインを投げ込もうとしているんだと気付く。それにしても商売が上手い。木の箱を置くだけで収益効果はだいぶ上がるだろう。ひとしきり感心して、僕も20セントを投げ込んでみた。見事木の箱に入った。となりにいた白人の子供が「グレィト」と言って笑った。 見晴らしのいい塔から、しばらく海を眺めた。いろいろスッぽかして西の果てに来てしまったなと思う。 荷物が重い上に人も多い。それでなんだかボーッとしてしまい、修道院の中には入らないことにした。それより、人があまり来ない、普通の観光客が寄り付かない場所を探そうと思った。 参道を降りながら、土産屋を物色。ポストカードを選んでいると、なぜか修道院の周りの海にイルカが泳いでいる姿を合成したポストカードがあった。どう見てもイルカはいそうに無い海なのに。こういうダサいポストカードは万国共通のようだ。 門を一回出て、駐車場の裏手にある小さい門に入ってみた。モンサンミッシェルの裏側に回る道が続いていた。進んでいくと石造りの小さい祈り場(?)を見つけた。そこからしばらく海を眺める。人もいなくていい感じだ。遠くに島の影が見える。カメラで撮っても映らないくらいボンヤリした影だったので、日記帳に写生してみた。水平線の向こうまで続く干潟を見ていると、また寂しくなってきた。 バスの時間が迫ってきたので、バス停へ戻る。日本人らしき男性二人がいたので話しかけた。卒業旅行だそうだ。東京から来たというので互いの大学を明かすと、片方のヒゲの人が「ソニン来たよね!」と言い出した。学園祭に来たというと、とてもうらやましがっていた。しばらくソニンの話しで盛り上がる。こんなに美しい文化遺産の前でソニンの話しをするとは思わなかった。 バスに乗り込み、遠くなるモンサンミッシェルを見ていた。遠くから見る姿が一番美しいと感じるのは、なんだか寂しい。 昨日はあんなに心細かった道を、バスでレンヌまで戻る。昨日は見えなかったが、バイパスか高速道路のようだった。ちょうど山形―仙台間みたいな風景。 レンヌ駅でTGVのチケットを買い、パリに戻ることにした。人ごみが恋しくなったのだ。16:05発モンパルナス行きに乗った。18:15着。まだ今日の宿泊先が決まっていない。迷ったが、ダルタニアン(ユース)に戻ることにした。予約は取っていないが、なんとかなると信じる。 ダルタニアンに戻ると、前に泊まったとき仲良くなったスタッフの黒人オッサンに「また来たか!」と歓迎される。無事、部屋は取れた。受付で「MIXだけどOKか」と聞かれる。つまり、男女相部屋になるってことだ。二つ返事でOK。4泊で80ユーロ。 指定された部屋に行き、ドアを開けると、女性の笑い声が聞こえてきた。「ハロー」と挨拶して部屋見回すと、10人部屋には女性しかいない。しかも全員ドイツ語で話していた。一瞬、ひなた荘に来たかと思ったが、これはなんか違う。全員ゲルマンなんて、革命的すぎないか。「ソーリーソーリー」と100回ぐらい言って、部屋を出た。ドアの前で困っていると部屋から女の子が出てきて「レシートを見せて」と言われる。レシートを見て女の子は「your room」と言った。納得してくれたようだ。しかしさすがに居づらいので、ロビーで一服していたら日本人に声をかけられた。29歳で服飾関係の人だという。服の話しをいろいろした。「渋谷のリップバーンウィンクルが好き」と言っていた。聞いたことのある店だった。ヘルシングじゃないよ。あとは服を作る工程のことや、オートクチュールの服の作り方も聞いた。とても興味深い話しをたくさん聞いた。その人は暇つぶしに夜中までつきあってくれた。 シャワーを浴びて、夜中に部屋に戻る。女の子を起こさないようにそっと。夜中にいびきで目が覚めた。ドイツ女はいびきが大きい。ひとつ学んだ。 |
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