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フランス映画「アメリ」に出てきたカフェに行くことにした。ホテルで仲良くなった日本人の男もついてきた。今回の旅の大きな目的でもある。別にアメリのファンというほどでもないけれど、あの映画でパリのカフェ文化に興味を持ったことは確かだ。
行く途中に北駅を通った。ヌーヴェルヴァーグの名作「北駅」の舞台。随分前に見たので、なんとなくしか思い出せない。 アメリに出てきたカフェは、モンマルトルのムーランルージュという有名なナイトクラブの近くにある「cafe de moulin」というカフェだ。ムーランルージュはロートレックの生涯を描いた映画「赤い風車」の舞台にもなった場所で、有名な観光地でもある。ムーランルージュの周りは日本でいえば歌舞伎町みたいな場所で、風俗店も多い。でも、日本みたいにモロに卑猥な看板はそんなに見当たらなかった。 ムーランルージュのすぐ脇にある道を登っていくと、確かにアメリのカフェがあった。驚いたことに外からは「アメリ」のアの字も見当たらない。日本だったら大きな看板でも出して「アメリで舞台になったカフェです!」と宣伝していたところだろう。 中をのぞくと、あたりまえだけど普通のカフェだった。オッサンがカウンターでエスプレッソを飲んでいる。 窓際の席につくと、店の奥にアメリのポスター見えた。一応意識はしているようだが、なんというか、自重している。大人だなぁ。 映画に出てきたトイレの電飾もあった。ミーハー心で写真を撮ろうとしたが、なんだか浮かれている自分が恥ずかしくなり、止めておく。 メニューを見ると「クレームブリュレ・ドゥ・アメリ」の文字を発見。もちろんフランス語で書かれていた。それとコーヒーを注文。結局ミーハーなのだ。 日本人の女子大生風の女の子がワイワイ言いながら団体で入店してきた。「あー、やっぱり」と思う。集団はいきなり奥の食事席に着いた。そこはどう見ても食事のための席だった。食事をするのかと思ったら「クレームブリュレあるよー」などと言い出す。ウェイターはそんな空気を感じたのか、それともこういう客にうんざりしているのか、なかなか注文を取りに行かない。女の子達は「ちょっとー、注文来ないんだけどー」と言い出した。そういう時には自分で呼ばなきゃ来てくれないのだよ。客商売なんて、万国共通じゃないのだ。 ちょっと憤りながら観察していると、ウェイトレスがクレームブリュレを持ってきた。ウェイトレスはもちろん、アメリっぽくない、普通のお姉さん。 クレームブリュレは浅くて広い皿に入っていた。俺は深くて小さい皿に入っているものしか見たことがなかったが、こういうのもありなんだなと思う。表面の焼ける面積が大きくなって、香ばしさが増すのだろう。 アメリよろしく、スプーンの背で表面のカリカリした部分を叩き割る。すごい、俺は今アメリだ。多感な、でも引っ込み思案で優しい女の子だ。一口食べると香ばしいバニラの甘い香りが口に広がる。幸せの瞬間。しかし、食べ続けていくと口飽きしてきた。量も多い上にとても甘い。コーヒーを飲みながらなんとか完食した。食べているうちにどんどん日本人の女の子が入店してきて、居辛くなってきたのでさっさと店を出た。 モンマルトルには「サクラ・クレール聖堂院」という有名な聖堂があるのだが、パリはどこに行っても聖堂と教会だらけで、しかもひとつひとつがやたら立派だ。建築に食傷気味になっていたので、今日は行くのをやめておく。その代わり、モンマルトル墓地に行くことにした。ここで友達とはお別れ。 カフェから10分ぐらい歩くと墓地の壁が見えた。壁伝いに歩いていけば入り口に着くと思い、路上駐車と犬の糞の間を縫って歩く。しかし20分歩いても入り口は見当たらない。そのうち、もとの場所に戻ってしまった。おかしいなと思い見回すと、道のむこうに小さい階段が見えた。どうやらあれが入り口だったようだ。地図を確認しない俺がマヌケなのだ。だが、これぞ個人旅行の醍醐味とかなんとか、自分に言い訳しながら入り口へ。守衛に挨拶したら、通してくれた。 モンマルトル墓地は、日本の墓地とは違い、公園のような明るい雰囲気だった。観光客らしい人もいない。花をかかえたおじさんに挨拶をする。目指すはミシェルフーコーの墓だ。 墓は、趣向を凝らしたものが多かった。パリの一等地にある墓地だ、きっと裕福な家庭の墓が多いのだろう。スタンダールの墓もある。本を模った墓や、小さい聖堂のような墓、「考える人」の銅像が乗っている墓も見つけた。ところどころ、朽ちた墓もある。きっと、もう誰も訪れなくなった墓だろう。こうして、人は存在したことすら忘れられていく。 フーコーの墓は意外と普通の墓だった。顔のレリーフがはめこまれていたが、頭は禿げていなかった。残念。「あんたの本、まだ読んでないけど日本に帰ったら読むからね」と挨拶。 墓を出て、昼食を取ることにした。適当なレストランを探す。食堂のようなレストランに入ると、でかいおかみさんが席に通してくれた。みんなワインを飲みながら食事をしている。フランス人は昼間からでも酒を飲む。 メニューがよくわからなくて、困っていると隣の席のヘミングウェイにそっくりなオッサンが英語で話しかけてくれた 「メニュー分かる?何食うの?」「わからない。その肉美味そうだね、それ何?」「ステーキだ、美味いよ」「それいいな」 おかみさんに「あれください」と注文。ついでに赤ワインも注文。 ステーキはとても硬かった。日本じゃ肉は柔らかいほうがいいみたいだが、フランスはそんなのお構いなし。でも、タマネギのソースがかかったステーキは肉肉していてとても美味い。いっしょに飲んだ濃い赤ワインも肉によく合う。つい、飲みすぎてしまい、真っ赤になった。 ワインでふらふらになりながら、昨日も行ったバスティーユに行くことにした。バスティーユは歴史の教科書に載るくらい有名な地名だけど、今はもう監獄はない。大きいモニュメントの塔が建っているだけ。そのモニュメントの真向かいにある、昨日も入ったカフェにまた行ってみた。外の席でコーヒーを飲む。とてもいい天気で、眠くなってしまった。 うつらうつらしていると、乞食が現れて手を差し出した。どうやら小銭くれと言っているらしい。小銭はあるが、やるのは嫌だ。タバコを一本与えて、火をつけてあげた。乞食は「メルシー」と小さく言って立ち去った。 昨日行ったCDショップにまた立ち寄る。店内で2度も停電が起きた。 タバコが切れたので、タバコ屋に入る。フランスはタバコ税が高くて1箱5ユーロもする。フランスのタバコ「ジタン」を買ってみた。このタバコには少々思い入れがあるのだ。味は好きじゃないけど。 店を出て、タバコに火をつけようとするとライターが無いことに気付いた。たぶん、あのカフェで忘れてきたのだろう。また買うのも面倒なので、通行人の若い男に「火を貸してくれ」と頼む。快くライターを貸してくれた。パリでは道を歩いていて、「火を貸してくれ」と言われることが多い。たまに「タバコ一本くれ」という厚かましい奴もいる。後で人に聞いて驚いたが、「火を貸してくれ」というのはゲイがナンパするときの手口でもあるそうだ。となると、僕はあの若い男をナンパしたことになる。すごい。生涯最初のナンパ相手がフランス人でしかも男。ていうか、僕も何回も火を貸している。フランスにはゲイが多い。油断できない。 夜、ダルタニアンに戻る。夕食は中華料理にした。パリは中華料理屋が多い。プレートの鶏肉がやたら甘い。 ホテルのバーで一人で飲んでいると、女性2人に話しかけられた。アルゼンチンから来たらしい。酔っていた俺は英語でちょっとエロトークをしてみた。けっこうウケた。何を言ったか忘れたが、あの時は普段の2倍ぐらい英語を駆使できたような気がする。もう部屋に戻ろうとすると、ひとりに「彼女いるの?」と聞かれる。「いるよ」と言うと、ニヤリとして「バーイ」と言われた。なんだ?抱いてほしかったのか?部屋に戻るとき、自動販売機でコンドームが売られているのを見た。複雑な心境だった。 |
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